こんにちは。【ADHD夫を支える妻】はっさくです。
前回、今年度アカデミー賞授賞式で起こった騒動を記事にしました↓
アカデミー賞騒動をクリス・ロックの「学習障害」に帰結させることへの違和感
騒動の原因となる問題発言を行ったコメディアンのクリス・ロックが、自身の非言語性学習障害を公表したのです。
彼は「言語を使うのはすごく得意」な一方で、「言葉によらない気持ちの伝達では苦労してきた」と話しています*1。
今日のテーマは【非言語性学習障害】。
非言語性学習障害(NVLD/NLD)は、アスペルガー症候群と多くの共通点のある障害です。
今日は、非言語性学習障害の特徴やアスペルガー症候群との違いについて詳しくまとめます。
非言語性学習障害とは
非言語性学習障害(NVLD/NLD)とは、学習障害(LD)の一種です。
学習障害は以下のように分類されます。
①言語性学習障害
言語性学習障害のある人は、知的に遅れがないにもかかわらず、文字、文章、数字などの言語性情報を処理することが苦手です。
- 読字障害(ディスレクシア)
- 書字障害(ディスグラフィア)
- 算数障害(ディスカリキュア)
②非言語性学習障害
非言語性学習障害のある人は、文字を書いたり文章を読んだりする能力には問題がないものの、「表情から感情を察する」「場の空気を読む」などの非言語コミュニケーションが苦手です。
また、時間概念や空間概念などの非言語性情報を理解することが難しく、日常の様々な場面で支障をきたすことがあります。
- 言語障害:自分の思っていることを言語化できない
- 聴力障害:聞いたことをうまく想起することができない
- 空間認知障害:物の位置関係がわからない、立体を認知することが苦手
- 記憶障害:時間概念を理解することが苦手⇒長期記憶が弱いことも
- 社会性スキル障害:表情、声色、ジェスチャーなどから感情を読み取ったり、場の空気を読むことが苦手⇒対人関係をうまく築くことができない
同じ学習障害でも苦手とする分野が違うんだね。
日本でははっきりとしたデータはありませんが、アメリカの論文によれば、アメリカとカナダの青少年の25人に1人は非言語性学習障害だといいます*2。
コミュニケーション面で困難を抱えやすい非言語性学習障害
一般的に学習障害といえば、学力不振など学習面での困り感にスポットが当たります。
しかし非言語性学習障害のある人は、学習面のみならず、対人コミュニケーション面で困難を抱えています。
非言語性学習障害のある人は非言語性情報の読み取りが苦手。相手の感情をくみ取りにくいといわれているよ。
メラビアンの法則というのをご存知でしょうか。
これは「感情や気持ちを伝えるコミュニケーションをとる際、どんな情報に基づいて印象が決定されるのか」を定義したものです。
つまり、感情や気持ちを伝えるコミュニケーションは、9割が非言語コミュニケーション(視覚情報と聴覚情報のやりとり)で行われているのです。
コミュニケーションで言葉の占める割合はたったの7%!非言語性学習障害の人がコミュニケーションで苦手を抱えやすい理由がよくわかるね。
ちなみに非言語性学習障害は「学習障害」というだけあって、もちろん学習面にも影響が出ます。
非言語性学習障害のある人は、読み書きは得意であっても、物の上下左右の関係を理解することや、時計の針を読むこと(アナログ時計は理解しにくいようです)、その他数学的な概念を理解することなどを苦手とします。
コミュニケーション面での苦手と学習面での苦手。一見関係のないようだけど、どちらも非言語性情報を理解しにくいことが原因で起こっているよ。
非言語性学習障害とアスペルガー症候群の違い
非言語性学習障害はアスペルガー症候群(現在のASD/自閉スペクトラム症)との共通点がたくさんあります。
例えば、非言語性学習障害には、
- 人の気持ちを読み取ることが苦手
- 強いこだわり
- 同一性への固執(繰り返しを好むこと)
などの特性があります。
これはアスペルガー症候群の特性と酷似するもので、もはや学習障害の域を超えているといっても過言ではありません。
非言語性学習障害とアスペルガー症候群の違いがますますわからなくなってきた・・・
これに関して、ある論文で興味深い見解が示されていました。
非言語性学習障害の疾病分類上の位置付けを考える上で、もっとも問題になるものは、Asperger症候群であろう。もともと、非言語性学習障害は、学習障害の患者の中で比較的良好な機械的言語能力と算数能力の障害や、言語性知能と動作性知能の乖離に注目したものである。一方 、Asperger症候群は行動の特異性に注目して記載されたものである。しかし、近年、両者の共通性が注目されている。・・・明確な結論は出ていないが、両者は同一の患者群を異なった側面から表現している可能性が高い。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ninchishinkeikagaku1999/2/Special/2_Special_41/_pdf/-char/ja
大切なのは最後の一文です。
非言語性学習障害とアスペルガー症候群は「同じ患者を違った観点からみているだけ」なのではないかと。
学習面からみれば「非言語性学習障害」なんだけど、行動面からみれば、それ完全に「アスペルガー症候群」だよねと・・・。
それくらい似通っているんだね。
ということは・・・よくよく調べてみると、アスペルガー症候群の人にも非言語学習障害の人と同じような学習面での困難があるのかもしれませんね。
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ちなみに、、、
非言語性学習障害について調べると古い論文ばかりが出てきます。
というのも現在は「言語性」「非言語性」という分類は用いないとのこと。
現在では、読み書き計算が著しく苦手で日常生活に支障をきたした段階で、複合的に「学習障害(限局性学習症/LD)」と診断されるそうです。
学習障害(限局性学習症) | e-ヘルスネット(厚生労働省)
まとめ
今日は、非言語性学習障害の特徴やアスペルガー症候群との違いについて詳しくまとめました。
障害の分類は時代によって様々に変化するものなので、明確な定義づけはできないと考えた方がベターです。
ただ、非言語性学習障害の特徴を知ることで、「典型的な学習障害とはちょっとちがうけど、特定分野の学習に著しい苦手を抱えている子ども」などに対して多角的なアプローチができるようになります。