グレーゾーンなわたしたち

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ASD当事者はなぜ「光の粒」が見える?~感覚過敏と時間情報処理の正確さ

こんにちは。【ADHD夫を支える妻】はっさくです。

先日に引き続き、感覚過敏の話をします。

近年、感覚過敏のメカニズムついての研究が進み、様々なことがわかってきました。

今日はASD当事者に「光の粒」が見える理由を、感覚過敏と時間情報処理の正確さの関連から紐解きます。

 

ASD当事者に「光の粒」が見える現象

発達障害、とりわけASD(自閉スペクトラム症)の中には強い感覚過敏に悩まされる人がいます。例えば強い視覚過敏がある人には、本来は見えないはずのものが見えたりします。

大阪大学などの研究グループは、発達障害の世界の可視化に取り組んでいます。当事者の話をもとに映像で再現したところ、明るいところでは世界がまぶしく見え、光を痛いと感じる人や、光の粒が見えるという人がいました*1

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また中には、蛍光灯の光が瞬くのが見えたり、テレビやパソコンの画面がチカチカしたり、大気中の粒子が見えたりなど、通常では見えないものが見えて苦労しているというASD当事者の声が多数あります*2

 

ASD当事者はなぜ「光の粒」が見える?~感覚過敏と時間情報処理の正確さ

ASD当事者はなぜ、光の粒のような通常では見えないものが見えるのでしょうか。これにはASD特有の強い感覚過敏が関係しています。

最近の研究で、感覚過敏は感覚の時間情報処理の正確さ(=時間分解能)と関連があることがわかってきました*3

 

 時間順序判断の正確さを測る実験(時間順序課題/TOJ)

ここで、ある実験を紹介します。

【時間順序判断の正確さを測る実験(時間順序判断課題/TOJ)】*4

この実験では、刺激の時間情報をどれくらいの速さで認識できるかがわかります。

<方法>

① 下図のような装置を使い、左右の指先にごくわずかな時間差(15ミリ秒~240ミリ秒)で順番に振動を与える

左右どちらの振動が後に感じたかを判断してもらう。

③ ①、②を繰り返し、どれくらいの時間差まで正確に答えることができるかを調べる。

https://m-ide.jp/our_interests.html#spb-bookmark-3

<結果>

定型発達者では、左右の順序の判断には0.05秒程度の時間差が必要でした。

それに対して、ASD当事者の中には0.008秒と非常に短い時間差の順序を判断できる人がいました。

**************

この時間順序課題(TOJ)は、刺激の時間情報をどれくらい正確に処理しているのか(=時間分解能を測ることができます。

そして、非常に正確な順序判断ができた人(=時間分解能が高い人)ほど、強い感覚過敏の訴えを持つことがわかってきたのです*5

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はっさく

時間分解能が高すぎる

  ↓

細かな感覚の違いがわかりすぎる

  ↓

感覚過敏が強くなる

という感じかな?!

 

 ASD当事者に「光の粒」が見える理由

 以上のことから、ASD当事者に「光の粒」が見える理由がわかります。

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はっさく

時間分解能が高すぎる

  ↓

細かな感覚の違いがわかりすぎる

  ↓

感覚過敏が強くなる

このことが、光の粒子の動きが見えるほどの強い感覚過敏に結びついている可能性があります。

冒頭で紹介したような、蛍光灯の光が瞬くのが見えたり、テレビやパソコンの画面がチカチカしたり、大気中の粒子が見えたりなどのASD当事者の悩みも、この「過剰に高い時間分解能」が関係している可能性があります。

例えば、蛍光灯はものすごい速さで点滅していますが、これが連続した光に見えるのは、蛍光灯の点滅のスピードが私たちの視覚の時間分解能を超えているからです*6

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はっさく

蛍光灯は、普通の人には認識できないスピードで点滅しているんだよ

なんとASD当事者は、この点滅ひとつひとつを認識できているというのです!

視覚に限らず、聴覚や触覚についても同様のことがいえます。

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はっさく

ASD当事者はものすごいスピード感覚刺激の細かな「違い」を認識できるんだ!

 

まとめ

以上、ASD当事者に「光の粒」が見える理由について、感覚過敏と時間分解能の関連性から説明しました。

ASD当事者は「過剰に高い時間分解能」により、強い感覚過敏が引き起こされている可能性があります。感覚の鋭さは一種の才能ともいえますが、同時に生きづらさの原因にもなります。感覚過敏のメカニズムの更なる解明により、当事者の生きづらさが少しでも軽減されることを願っています。

(^^)/

※感覚過敏について、こんな記事もぜひ↓

gray-zone-family.hatenablog.com

 

*1:NHK『発達障害 解明される未知の世界』https://www.nhk.or.jp/special/plus/articles/20170630/index.html

*2:高橋 智、 増渕 美穂『アスペルガー症候群・高機能自閉症における「感覚過敏・鈍麻」の実態と支援に関する研究
── 本人へのニーズ調査から ──』東京学芸大学紀要 総合教育科学系 59、2008年、p287-p310(p290)
https://core.ac.uk/download/pdf/15925065.pdf

*3:国立障害者リハビリテーションセンター研究所 発達障害研究室長 和田真『特集 発達障害の方の「生きにくさ」の背景にある脳内メカニズムの解明に向けて』 国立障害者リハビリテーションセンター専門情報誌 国リハニュース 第359号(平成29年1月号)http://www.rehab.go.jp/rehanews/japanese/No359/2_4_story.html

*4:・国立障害者リハビリテーションセンター研究所 脳機能系障害研究部 井手正和『研究概要 感覚処理障害の研究』https://m-ide.jp/our_interests.html#spb-bookmark-3。・国立障害者リハビリテーションセンター研究所 発達障害研究室長 和田真『特集 発達障害の方の「生きにくさ」の背景にある脳内メカニズムの解明に向けて』 国立障害者リハビリテーションセンター専門情報誌 国リハニュース 第359号(平成29年1月号) http://www.rehab.go.jp/rehanews/japanese/No359/2_4_story.html

*5:国立障害者リハビリテーションセンター研究所 発達障害研究室長 和田真『特集 発達障害の方の「生きにくさ」の背景にある脳内メカニズムの解明に向けて』 国立障害者リハビリテーションセンター専門情報誌 国リハニュース 第359号(平成29年1月号)http://www.rehab.go.jp/rehanews/japanese/No359/2_4_story.html。 

*6:国立障害者リハビリテーションセンター研究所 井手正和『感覚過敏の神経生理過程が明かす自閉スペクトラム症者の感覚経験』2018年度日本認知科学会第35回大会(p163)https://www.jcss.gr.jp/meetings/jcss2018/proceedings/pdf/JCSS2018_OS04-2.pdf